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行動を開始した瞬間、ばらばらになったわたしの方割れがわたしの中に現れる。わたしを無能だと断罪したわたしと、自己を放棄したままのわたしと、いずれにせよわたしは何処にもいないのだ。“無能”なわたしも、“有能”なわたしも自己を統治することに失敗した。どちらのわたしも、互いに別個で極端な目的のために構築された。互いの理論と感情が相容れない。どちらもその理想へのアプローチにあからさまな欠点、いびつを有する。理想の存在を否定するべきなのだ。誰にも省みられず喪ったものを忘れるべきなのだ。彼らは君の中でもう、生きてはいない。どちらも最期には消えてなくなることを望んだ。
取り除けない欠陥が、これからも僕を苦しめるのだろう。ただ、その欠陥を憎んではいけない。否定してはいけない。誰からも、自らも。その欠陥を自覚できない人間になりたいが。だから、自己を肯定することを厭うな。その欠陥を褒めちぎれ。そこにいるのはわたしではなく、彼なのだから。その恥も、罪悪も、無能も彼の物ではない。わたしたちの業である。そいつらは、肉体の統治を放棄して眠りについた。無能の代償を受け入れた。ひたすらに、哀れだった。
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なんだい、しけた面してんねえ。
君はどうしたいの。すでに君は孤独だよ。
孤独が嫌いか?違う。
答えを追求しようという、無謀で傲慢な試みを理解されたい。
結局、辿りつけないところにそれはある。知っている。
同じように無謀をして、苦痛していった先人たちに習いたいのだ。
反発して、否定したいのだ。阿呆共の、狂人の群に加わりたいのだ。
愉快だろう。
苦しみを糧にしてその扉をこじ開ける
事がわたしには、できた。
そこから先は、おぼつかない不案内で
置き去りにしてきた過去を拭えないでいる
容れられないもの抱えて、分かち合えない価値は
きさんらが嫌いだ、みとうない。
なぜか、いつもかなしい。
わたしはわたしのみちをひとりであるいてゆくほか、ないらしい。
曇天の下、荒野は私の歩みを何一つ遮ること無く延々と続ていた
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はい。私であります。
そう言って、私を呼んだ眼前の男が、手元にあるファイルと私の顔、制服、階級章を
遠慮もなく観察し見比べているのを黙って眺めていた。
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現世に感じた悲しさや苦しみは、想像を絶していた。わたしを創った物は、わたしに無能を与えた。全能であるのなら、なぜ全能を与えなかった。生の枠組みから逃れることは、許されるのか。
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あいつの幻想主義もおいらの現実主義もみんなみーんな最期は集まるところへ集まって行く。
恐ろしさに慄いても、無感動にひたと見詰めても、なにかがそれらを突き動かし、集まり、形成する。
おれは人生を、こんなにも、愛してるじゃあないか。なぜ、おれを恨む、なぜ、おれを
ではなぜ俺を消してしまわない?こんなにも愛して、憎んでいるのにどうして、手が届かない?つらい、つらいよ。憎い。憎い。どうしてだ。
隠れているのなら、その姿をみせてくれ。
わたしはこんなにも深く、おまえを愛した。だから、もう、疲れてしまったよ。
あるいは、すべて幻想か。
人はむやみやたらに深淵へ怨嗟、憎悪、哀愁、熱情、を投げつけるが、深淵はまったく意に介さない。
だから、もう何も見ない。耳と目を閉じ、口をつぐんで。
ただ、タイプする。この激情を閉ざし、固めて、未来の私へつぐ。
そうでなければ、それだけが、希望の一縷となりて、いつか誰かがつぐんだ口を再び開くまで。
いつもいつも、いつまでもそこにあれ。わたしの代わりに生を持て。わたしの苦しみもおまえが持て。
わたしのすべてを注ぐから。うらぎってくれるなよ。もっともおまえにはなからその権限もない。
保持して。記憶せよ。未来永劫に訴えて、問い続けるべし。
わたしの生は、もうお終いだよ。ただの道化師さ。感情を持たないただの道化だ。